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SEM病理組織解析データベース

目次

1. SEMって何?

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一般教養偏

1. SEMって何?

(1)SEMで何ができるの?

電子顕微鏡には走査電子顕微鏡(*1 SEM)と透過電子顕微鏡(*2 TEM)があります。SEMは特に試料表面の微細構造を高倍率で観察する装置で、TEMは主に試料の内部構造を高倍率で観察する装置です。ここではSEMの特徴について紹介します。

*1 SEM:Scanning Electron Microscope
*2 TEM:Transmission Electron Microscope

SEMの特長

  1. 低倍率から高倍率まですべての固体表面の観察が可能です。
  2. 光学顕微鏡に比べて焦点深度(*3)が深く、立体的な画像が得られます。
  3. X線分析装置との組み合わせで、微小領域の元素分析が可能です。

*3:焦点深度:奥行きのある試料を観察した時、奥行き深くまでピントが合うことを「焦点深度が深い」といい、逆に奥行きの浅い一部分しかピントが合わないことを「焦点深度が浅い」といいます。

観察例
動物組織をSEMで観察した例を以下に示します。
通常の高真空SEMで動物組織のように水分を含んだ試料を観察するには、「固定、脱水、乾燥、金属をコーティング」といった前処理を行います。

ラット腎臓の糸球体
左の画像で丸く見える部分()が腎臓の糸球体です。糸球体の部分を拡大して観察すると、右の画像に示すようにシダ状にかみ合っているタコ足細胞や、長さ不定な微絨毛()を明瞭に観察することができます。

ラットの細胞内小器官
凍結割断法により、細胞の内部にある核(N)、核小体(Nu)、粗面小胞体(rER)、ゴルジ装置(G)、ミトコンドリア(M)などの細胞小器官や大小の分泌顆粒(矢頭)を立体的に明瞭に観察することができます。

元素分析例
双子葉類のアカザ科植物であるキノア種子断面の元素分析例を以下に示します。
キノア種子は、高タンパク質、高ミネラル食品です。元素分析により、Mg(マグネシウム)、P(リン)、S(硫黄)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)などのミネラル成分の分布状態を捉えることができます。

(2)SEMの原理と構造について学びましょう

SEMとは…
真空中で細く絞った電子ビームで試料表面を走査し、そのとき試料から出てくる情報(信号)を検出して画面上に試料表面の拡大像を表示する装置です。

真空中で電子ビームを試料に照射すると、上図のように二次電子、反射電子、特性X線などが放出されます。SEMでは、主として二次電子または反射電子信号を用いて像を形成します。二次電子は試料表面近くから発生する電子で、それを検出して得られた二次電子像は試料の表面形状を反映しています。
反射電子は試料を構成している原子に当たって跳ね返された電子で、原子番号が大きいほど放出量は多くなります。そのため反射電子像では、平均原子番号に依存したコントラスト(組成コントラスト)が得られ、組成分布を反映した像となります。また、SEMにX線検出器を装着して元素分析を行うことも可能で、SEMは試料形状の観察だけでなく、その試料にどんな元素がどの程度含まれているかを調べるX線分析装置としても活用できます。

SEMの構造
SEMは下図に示すように、鏡体と試料室、ディスプレイおよび操作部からできています。鏡体の内部は真空に維持され、電子銃でつくられた電子ビームが試料めがけて進行しますが、その過程でコンデンサーレンズ・対物レンズといった電磁レンズによって細く絞り込まれます。また偏向コイルに走査信号を加えることにより電子ビームの試料表面での走査が行われます。試料室には、試料移動機構を持った試料ステージと試料から放出された電子(二次電子、反射電子)やX線を検出するための検出器が備え付けられています。試料室下部には鏡体および試料室内部を真空に排気するための真空ポンプが接続されています。

各部の働きを下に示します。

  1. 電子銃
    金属から電子を放出させ、強い電界で加速する機構です。
  2. コンデンサーレンズ
    電子銃から放出された電子ビームを細く絞る電磁レンズ(コイル)です。
  3. 偏向コイル
    電子ビームをX・Y方向に走査させたり、走査する領域(倍率)を変更するための機構です。
    SEMの倍率とは、図に示すように画像表示エリアLの幅と試料上で電子ビームが走査される幅Wの比で決定されます。
  4. 対物レンズ
    電子ビームを細く絞るとともに試料表面に焦点をあわせます。
  5. 二次電子検出器
    試料から発生した二次電子を検出します。二次電子は試料の表面形状を反映した像を形成します。
  6. 反射電子検出器
    試料から発生した反射電子を検出します。反射電子は試料表面の組成分布を反映した像を形成します。また、表面の凹凸情報を得ることもできます。
  7. X線検出器
    試料から発生したX線を検出します。その試料にどんな元素がどの程度含まれているかを調べることができます。
  8. ディスプレイ
    二次電子や反射電子像、X線分析の結果を表示します。
  9. 真空ポンプ
    鏡体および試料室が真空になるようポンプで排気しています。

(3)卓上型SEMは何ができるの?
卓上に置けるコンパクトサイズで、100V電源で動作し、初心者の方でも簡単に操作できる卓上型SEMは、通常の高真空SEMとは異なり低真空で観察を行うため、紙やプラスチックなどの電気を通しにくい非導電性試料や水や油を含んだ試料を、前処理なし、あるいは省略して観察することができます。また、X線検出器を内蔵したタイプでは、元素分析も可能です。卓上型SEMの像は通常反射電子像となりますが、低真空専用の二次電子検出器を装着したタイプでは、二次電子像を観察することもできます。

卓上型SEMでの低真空観察法
下図に示すように、試料室内を低真空にし、ガス分子の数を増やすと、試料に照射される電子ビームは試料室内のガス分子と衝突しやすくなります。この衝突の際、ガス分子はイオン化され、+イオンと電子が生成されます。この+イオンが試料表面に蓄積した電子と結合して中和し、帯電を中和することができます。このような 原理によって、非導電性試料でも金属コーティングせずにそのまま観察・分析することができます。

卓上型SEMで動物組織を観察した例を以下に示します。

ラット腎臓の糸球体1(二次電子像)
通常の高真空SEM観察用に前処理を行った腎臓の糸球体を低真空二次電子像で観察した結果です。左の画像は糸球体全体、右の画像は拡大像です。タコ足細胞がかみ合っている様子など高倍率で明瞭に観察することができます。

ラット腎臓の糸球体2(反射電子像)
動物組織ブロックの低真空SEM観察を行う場合、化学固定した後に白金ブルー染色をすると、通常の前処理を簡略でき、金属コーティング無しでも観察することができます。

図は、GAのみで固定したラットの腎臓組織片を、白金ブルーで染色をしてから脱水、t-ブチル凍結乾燥を行い、金属コーティングは全く施さずに反射電子像で観察した結果です。二次電子像とは若干イメージは異なりますが、タコ足細胞の足突起がかみ合っている様子なども明瞭に観察することができます。

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